はじめに
スティーヴン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、ジェームズ・キャメロン………長い歴史を持つ映画の中で、「巨匠」たちは映像技術を含めた映画制作における全てを牽引してきた。
彼らは商業映画を含めた数多くの作品を手掛け、やがてハリウッドの殿堂入りを果たすまでの名声を手に入れた。
しかし監督というのは、映画という芸術分野において最も己の美的センスを発揮する役職と言えるかもしれない。
脚本家もそれに含まれるかもしれないが、映画制作の表現的な責任を背負っているという意味では、やはり監督の比重のほうがより大きいのではなかろうか。
とはいえ、それぞれ監督の持つ「表現力」を映画の中で実現できて批評家に絶賛されたとしても、同時に興行的にも成功を博す………とは限らない。
大衆に受けるようにするならば、少なからず監督独特のエッセンスを削る必要が出てきてしまうのだ。そういう意味では、最もセンスが問われる役職であるのと同時に最も苦悩する役職なのかもしれない。
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ところが、この「監督の持ち味」と「大衆映画の大味」を見事にブレンドし、世界的な人気を獲得した監督が存在するのだ。それこそが「クリストファー・ノーラン」である。
『メメント』で知名度を高め、DCコミックス原作の映画『ダークナイト』で世界的な人気を獲得、2023年には『オッペンハイマー』でアカデミー賞を総ナメした。
国内外問わず圧倒的な知名度と人気を誇っていることから「作家性の高い作品を世界で最も商業的に成功させた監督」として名を馳せている。
今回はそんな、クリストファー・ノーランとは一体何者なのか深堀りしていこうと思う。
経歴
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クリストファー・ノーラン（Christopher Nolan）
※情報はWikipediaのものを参照しています。
イングランド出身。ロンドン大学を卒業後映画監督となり、前述したとおり監督・脚本・製作など数々の役職を担うことが多い。
妻のエマ・トーマスはキャリア初期の頃からノーラン作品の製作として参加しており、また弟のジョナサン・ノーランと共に共同脚本を執筆していることも多い。
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1999年に『フォロウィング』で長編映画デビューを務め、その後制作した『メメント』が異例の大ヒットを記録し、ジョナサンと共にアカデミー脚本賞にノミネートされた。
2002年にはアル・パチーノを主演に迎え『インソムニア』を制作、そして2005年には『バットマン＆ロビン／Mr.フリーズの逆襲』以来となる『バットマン』の実写映画である『バットマン ビギンズ』の監督を務める。
この時点ではあまり興行的に振るわなかったが、その続編である『ダークナイト』がアメコミ映画史上最大の成績を記録。監督として知名度を一気に上げた。
『バットマン』実写映画シリーズ最大のヒットを記録、アカデミー賞では助演男優賞を受賞、作品賞ノミネートを逃したことが物議を醸し次年度から作品賞の枠が5枠から10枠に増えるなど、凄まじい影響力を見せつけた。
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その後も大作映画を多く手掛け、2006年にはヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールを迎え『プレステージ』を、2010年にはレオナルド・ディカプリオ主演『インセプション』を制作。
続く2013年には『ダークナイト』の続編にして完結作『ダークナイト ライジング』を制作、2014年に初のSF映画である『インターステラー』を手掛けた。
2017年には第二次世界大戦中の英国軍による「ダイナモ作戦」を、陸海空の3つの視点で描いた歴史映画『ダンケルク』を制作、たちまちヒットを記録し初の監督賞ノミネートを果たした。
2020年にはジョン・デヴィッド・ワシントンを主演に迎えた『TENET テネット』が制作されたが、コロナ禍の影響で興業が振るわず失敗。しかしながら、ファンの間では非常に根強い人気を持つ。
そして2023年、「原爆の父」ことロバート・オッペンハイマーの伝記映画である『オッペンハイマー』を制作。
これが興行的に大成功を収めただけでなく、その年のアカデミー賞を総ナメするという快挙を達成。作品賞含む7部門を受賞した。
この功績を受け、ノーランは「ナイト」の称号を授与され、同じく妻のエマも「デイム」の称号が与えられた。
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また監督以外にも、製作総指揮として他作品にも参加。
『ダークナイト』もとい『バットマン』のDCコミックスゆかりで、DCEU（DCエクステンデッド・ユニバース）の『マン・オブ・スティール』や『バットマンvsスーパーマン』などにおいて製作総指揮を務めた。
と、このようにハリウッドで大活躍しているノーラン。『オッペンハイマー』で大成功を収めた彼が次にどんな作品を手掛けるのか、早くも注目が集まっている。
作風などの特徴
全世界から注目を浴びるクリストファー・ノーラン、彼の作風は非常に独特であり彼独自の「ノーラン節」を確立してみせている。
では、そんな彼の作風を引き立てる要素とは何なのか………そこを深堀していけばいくほど、彼が如何に他の監督と比べ突出しているかどうかがおわかりいただけるだろう。
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まず彼は、どの作品においても同じ俳優を多く多用することで知られる。
『オッペンハイマー』で主演を務めたキリアン・マーフィは、『バットマン ビギンズ』ではヴィランのスケアクロウとして、『インセプション』では物語の中心人物として出演。
同様に、『バットマン ビギンズ』からノーラン作品に出演し始めたマイケル・ケインは『TENET テネット』までの8作品全てに（ゲスト出演含め）出演。
他にもアン・ハサウェイやマット・デイモン、トム・ハーディなども複数の作品に出演している。俳優の贅沢な使い方もまた、彼の唯一無二の特徴と言えるだろう。
また撮影スタッフも、俳優と同様同じ人を起用することが多い。特に映画音楽家として名高いハンズ・ジマーは5作品連続で音楽制作を担当した。
だが何よりもクリストファー・ノーランをクリストファー・ノーランたらしめるのは、ズバリ「徹底したアナログ主義」であることに違いない。
昨今における映画の撮影は、技術の発達によりデジタルカメラでの撮影が主流となった。その方がコストも抑えられデータ管理もしやすいため、従来のフィルム撮影よりもコスパが高い。
しかしながら、ノーランは徹底して撮影にはフィルムカメラを使用。またハリウッドでは主流となりつつあるCGも、彼の映画では可能な限り使用されていない。
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ではノーラン作品において象徴的なシーン………『インセプション』の回転する廊下のシーンや『TENET テネット』の飛行機激突シーン、『ダークナイト』の病院爆破のシーンは、如何にして作り上げられたのだろうか。
答えは明確である………「全て実際に撮影した」ものだ。回転する廊下は実際にセットを組み立て撮影、飛行機は廃棄予定だったものを買い取り建物にぶつけ撮影、病院も実際に建物を爆破して撮影している。
果たしてここまでアナログ撮影を敢行した監督が、このデジタル化が進んだ現代にいただろうか。こうした徹底した「こだわり」こそが、彼を巨匠たらしめる第一の要因に違いない。
余談だがノーランは『007』シリーズの大ファンであり、それぞれの作品にオマージュが散りばめられている。いつか『007』最新作の監督を務める日が来るかも………？
おすすめ作品・５選
『メメント』
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『メメント』
("Memento")
一本目に紹介するのは、後に一世を風靡する「ノーラン伝説」の始まりたる『メメント』。
クリストファー・ノーランが監督と脚本を務め、弟のジョナサン・ノーランが執筆した短編『Memento Mori』を原作としている。
ガイ・ピアース、『マトリックス』のキャリー＝アン・モスが出演している。
「妻を強姦・殺害した犯人を突き止める」というのが簡単なあらすじではあるが、今作をややこしくしている要素というのが、主人公が10分間しか記憶を保てないということ。
主人公が何か行動をしていたとしても、しばらく経てばその行動理由も何もかも忘れてしまう。故に彼の身体には、失われた記憶を思い出すためのメモ代わりのタトゥーが彫られている。
だがそれだけに留まらないのが今作『メメント』。これもまたノーランの十八番ではあるのだが、物語における「時系列」をより複雑にしているのだ。
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今作には二つのシークエンスが存在し、「カラー」と「モノクロ」の二つが交互に入り乱れている。
「カラー」では物語の時系列を「逆行」して描き、記憶を定期的に失う主人公を観客の視点に当てはめている。
一方「モノクロ」は「順行」の時系列であり、主人公の境遇や過去の出来事を映し出している。
「カラー」と「モノクロ」が入り乱れることにより、観客は二つのシークエンスの繋がりが不明瞭で混乱する………が、その二つはしっかりと繋がっており、物語における「ある瞬間」を境に一つのシークエンスとなる。
と、非常に複雑ではあるが、今までにないような脚本を持つ今作。撮影も低予算で行われたことにより、完全にストーリーテリングと編集で高評価をもぎ取った作品となる。
前述したとおり、その年のアカデミー賞において脚本賞・編集賞にノミネートされた。
これを読んで気になった方は是非とも観ていただきたい。スマホなどを見ず、映画に一点集中できる環境を準備することを強くオススメしよう。
『ダークナイト』
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『ダークナイト』
("The Dark Knight")
『バットマン ビギンズ』に続く「ダークナイト・トリロジー」の2作目。これの大ヒットをキッカケに、ノーランは監督として大きく名を馳せることとなった。
ブルース・ウェイン／バットマンをクリスチャン・ベールが演じ、ヴィランの「ジョーカー」役としてヒース・レジャーが登用された。
公開当時、全世界興行収入において『タイタニック』に次ぐ第2位を記録するなど、凄まじい勢いを見せた今作。ではそのヒットの要因とは何だったのか？
一つ目の理由として考えられるのは、世界で初めて長編映画でIMAXカメラを使用したことだろう。今ではハリウッドの超大作において当たり前の存在だが、公開当時は希少価値が特に高かった。
世界で初めて使用したのと同時に、世界で初めてIMAXカメラを破壊したことでも有名。
これにより、今までのヒーロー映画ひいてはアクション映画とは一線を画する作品が誕生したのである。その迫力は、前作『バットマン ビギンズ』のものをはるかに超える。
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そしてもう一つ目の理由とは、「善と悪」の追求というアメコミ映画らしからぬテーマにあると考えられる。
『バットマン』シリーズに熟している方には知っての通りだが、舞台となるゴッサムシティは凶悪犯罪の溢れ返る混沌とした街。ブルース・ウェインも、そんなゴッサムシティの狂気に両親を奪われてしまった被害者の一人だ。
故にブルースは精神と肉体を限界まで鍛えぬき、悪をその手で罰する「バットマン」となった。だが彼もまた、司法の観点からすればコウモリのコスプレをした私刑執行人に過ぎない。
そんな中現れたゴッサムの新たなる知事であるハービィ・デントは、暗闇に閉ざされたゴッサムを照らすがごとし「光の騎士」として人々から絶大な支持を受けていた。
だがそれと同時に現れたのは、素性が全くの不明である凶悪犯罪者、狂気の道化師「ジョーカー」。彼の凶行は、ハービィ・デントの存在を以てしてでもゴッサムを恐怖のどん底に突き落とした。
ヒース・レジャーの狂気的なまでの役作りが功を奏し、アカデミー助演男優賞の獲得まで上り詰めた。惜しくも彼は若くして亡くなってしまったが………
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絶対的な「正義」と絶対的な「悪」。果たしてこれは裁判モノか？と言わんばかりのテーマ性は、アメコミ映画という範疇を超えているような気がしてならない。
その狭間にて揺れるゴッサムシティにおいて、事態を解決まで導けるのは「完全なる正義」でも「完全なる悪」でもないバットマン自身。
ノーラン監督特有のシリアスな作風と、同じくシリアスな『バットマン』シリーズとの相乗効果は言うまでもない。沈黙の守護者、ゴッサムの監視者、「闇の騎士」は間違いなく、映画史に永遠に名を刻んだのである。
『インターステラー』
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『インターステラー』
("Interstellar")
長い映画の歴史において「SF映画」とは長らく人々に親しまれてきたジャンルだ。映画における「表現」の可能性とは無限大、人の数だけ「宇宙」は存在するのである。
では「SF映画最高傑作」を決めるとして、挙がる作品とは何だろうか。キューブリックの『2001年宇宙の旅』、或いはジョージ・ルーカスの『スターウォーズ』？
どれもが素晴らしい作品であるため優劣を決めるだけ無駄かもしれないが、2010年代における「SF映画最高傑作」と称されるべき作品とは今作、『インターステラー』であることに間違いないだろう。
マシュー・マコノヒー主演、アン・ハサウェイやマイケル・ケイン、少年時代のティモシー・シャラメなどが出演している。
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「interstellar」、直訳すると「星間」であり、星と星との間を行き来する物語である………これだけ聞くとごく普通のSF映画に見えるが、今作はそのスケールが段違いだ。
別の宇宙空間まで移動できるワームホールや、相対性理論に基づく重力の影響による時間の遅延。表面上はフィクションっぽく見えるものの、その設定は徹底して現実の解釈に起因している。
とはいえ専門家によれば、まだまだ設定はフィクションの域を出ないらしいが………いずれにせよ天文学的には不正解だらけ（ストーリー的には大正解）な『アルマゲドン』とは大違いである。
また映像の迫力も当然凄まじく、いつものごとくIMAXカメラをふんだんに使った大スケールの映像を拝むことができる。
今作の舞台は宇宙ということもあり、多くの場面で宇宙の広大さを表現するための引きの絵が見受けられ、そのどれもが他のSF映画とは異なる象徴的なものだ。
そして今作では、光さえもすべて吸い込むあの「ブラックホール」も登場する。今作におけるテーマの一つである「重力」とは、このブラックホールから影響を受けていることが多い。
実際のブラックホールが撮影される前に今作が公開され、その後実在するブラックホールの写真が公開された際、その姿が今作に登場したものと全く同じだった、という逸話が存在する。
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そしてもう一つ、今作が2010年代における「SF映画最高傑作」たる所以が存在する………それは「映画」における最も普遍的なテーマの一つ「愛」である。
元宇宙船のパイロットである主人公のクーパーは、息子と娘を持つ二児の父。移住先の惑星を見つけ、地球の人々を救うべく、彼は宇宙へと飛び立った。
しかし果てしない宇宙への旅は、そう簡単には地球に戻ることのできないほぼ片道切符の旅。仮に帰還できたとしても、それは数十年も先の話となる。
これに娘のマーフィは猛反対し、和解できないままクーパーとマーフィは離れ離れになってしまう。しかしながら、二人を繋ぐ「親子の絆」は、例え何光年離れていても途切れていなかった。
父が娘に向ける「愛」。娘が父に向ける「愛」。物語終盤にて、そんな二つの愛が何千光年もの先で結びつく瞬間は言葉にできないほど美しい。
壮大なる宇宙冒険譚、人類を救うための長い旅路………その幕を締めくくるのは、草原にポツンと建つ家から生まれた、親子二人の絆だったのである。
果たしてこんな普遍的なテーマで、ここまでの規模感のストーリーにピリオドを打った監督はいただろうか………と、改めて痛感せざるを得ない。
『TENET テネット』
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『TENET テネット』
("TENET")
さて、ここまでノーランを代表する作品たちを紹介してきたわけだが、ここに紹介したものに限らず、ノーラン作品にはとある「共通点」が存在する………それは難解なストーリー構成だ。
「ダークナイト・トリロジー」は比較的わかりやすいものの、他の作品はしっかり集中して鑑賞に臨まないとついていけなくなってしまう可能性があるのだ。
今作『TENET テネット』は、そんなノーラン作品特有の「難解」な部分をとことん追求したかのようなSFスパイアクション映画だ。
ジョン・デヴィッド・ワシントン主演、ロバート・パティンソンやケネス・ブラナー、アーロン・テイラー＝ジョンソンが出演している。
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今作の最たる特徴としてまず挙げられるのが「順行」と「逆行」を利用したアクション、そしてストーリー。
「順行」とはその名の通り、物事は時間の流れに沿って動き出す。一方「逆行」は「順行」の真逆、つまり物事が逆再生したかのように動き出すのである。
銃のトリガーを引けば銃弾が空のマガジンに装填されている。手を伸ばせば遠くに投げ捨てたはずのものが戻ってくる。超高温の炎が逆に超低温の炎となる。
この「逆行」のシステムが今作を非常にややこしくしており、その複雑さから一回の鑑賞で今作の全てを理解することはほぼ不可能と言える。
かくいう筆者も全く分かりきっていないため安心されたし。
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だがそれを抜きにしても、スパイアクション映画特有のスタイリッシュな雰囲気をノーラン作品で味わえる、という何気に贅沢な体験をできるのはポイントが高い。
そして何よりも「逆行」を駆使した奇抜なアクションは、従来におけるどの映画にも当てはまらないもので新鮮極まりない。
例のごとく、実際に撮影もノーランのこだわりが大爆発。「逆行」で登場人物が動くシーンも、単に映像を逆再生するのではなく実際に逆再生しているような動きをさせて撮影したのだという。やはりノーラン恐るべし………
仮にストーリーがチンプンカンプンでも、逆に色んなことを不明瞭なものとし、そういうものだと割り切って流れるがままに今作を楽しむといいだろう。
何も訳が分からないまま、世界を救うミッションを課された主人公「名もなき男」のように、我々も「名もなき観客」として、その行く末を見守ろうではないか。
『オッペンハイマー』
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『オッペンハイマー』
("Oppenheimer")
最後に紹介するのは、第96回アカデミー賞を席巻した『オッペンハイマー』だ。
マーティン・J・シャーウィン著『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作とした、「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの生涯を描く伝記映画。
『インセプション』や『ダンケルク』など、ノーラン作品の常連であるキリアン・マーフィがオッペンハイマーを演じた。
この作品、出演俳優が兎にも角にも豪華であり、マット・デイモン、フローレンス・ピュー、エミリー・ブラント、ケネス・ブラナー、ロバート・ダウニー・Jr.らが出演した。
作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の計7部門を受賞した今作。他にもゴールデングローブ賞などで絶賛の嵐を巻き起こした。
伝記映画としての興行成績では、『ボヘミアン・ラプソディ』を超え歴代一位に。
また撮影方法に関しても、世界で初めてIMAXモノクロフィルムカメラを使用。またもや前人未到の方法で一世を風靡した。
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「原爆」の存在とは、日本のみならず世界そのものの理を文字通り「捻じ曲げて」しまった、人類における発明のある種の到達点。
それが実際に使われるべきでは「決して」なかったが、人類は事実上の「太陽」を作り出す力を手にしてしまったも同然だ。
劇中において、原爆を世界で初めて完成させ、その後アインシュタインと会話を交わしたオッペンハイマーはこう語る………「私が世界を破壊してしまった」と。
太陽にも等しい力を手に入れてしまった人類は、その気になれば世界をも破壊できる。人類に「火」を与えたプロメテウスと同様に、オッペンハイマーは人類に世界を破壊し得る「火」を与えてしまったのである。
世界初の核実験「トリニティ」にて、まばゆい閃光を目にする一同。それはまさに人類の叡智が花開いた瞬間であり、同時に世界の理の崩壊を告げる光だったのだ。
そんな「静かなる黙示録」を、ノーランは後悔と罪悪感に苛まれるオッペンハイマーの心情描写と重ねて表現したのである。
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しかしそんな「原爆の父」に相応しいテーマを持ち合わせつつも、劇中のほとんどは「赤狩り」によるノーランが尋問を受けるシーンがほとんど。
日本に落とされた原爆に関するシーンがないのは被爆者に対する冒涜では？という意見もあるが、今作はあくまでもオッペンハイマーの波乱に満ちた生涯を綴った伝記映画である、ということを踏まえればこうした構成も納得ではある。
“Now I am become Death, the destroyer of worlds.” 一端の理論物理学者から「死神」となった男の波乱万丈たる人生は、かつて人類の目の前で光輝いた「死の光」と同様に、目に焼き付いて離れないものとなるだろう。
≪併せてこちらの記事もどうぞ≫
今後の作品
『オッペンハイマー』の歴史的快挙を受け、今後更に勢いを増していくと予想されるクリストファー・ノーラン。
そんな彼、既に最新作の制作に取り掛かっている模様。彼のキャリアでは初となる歴史映画『オデュッセイア』だ。
古代ギリシアの吟遊詩人・ホメロスによる叙事詩『オデュッセイア』を基としており、主人公であるオデュッセウスを『オッペンハイマー』にも出演したマット・デイモンが演じる。
また作品の全貌は明かされていないが、他の出演俳優陣は既に公開されており、これが非常に豪華なことで界隈を震撼させた。
MCU版『スパイダーマン』でお馴染みトム・ホランドとデンゼイヤや、『TENET テネット』のロバート・パティンソンに『ダークナイト ライジング』のアン・ハサウェイ、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のシャーリーズ・セロンに『Pearl パール』のミア・ゴスと、ハリウッドの最前線を駆け抜けているスターたちが大集合。
海外メディアでは早速超巨大なセットが報道されており、ノーランの徹底的なこだわりと古代ローマの情景が加わるとどうなってしまうのか、今から楽しみで仕方ない。
今作は2026年7月17日にアメリカで公開予定。『オッペンハイマー』のように、日本での公開が1年も遅れるなんてことがないと良いが………
まとめ（あとがき）
半年もの間、一心不乱にシリーズ解説モノを書き続けて参りましたが、流石に飽きが来ましたということで次は監督紹介に手を出してしまいました。
人によって「何をキッカケに映画の沼へ引きずり込まれたのか？」というのがあると思いますが、その原因がノーランにある人も決して少なくないでしょう。
私自身もルーツ自体はアメコミ映画ですが、その次にハマったのがノーラン作品なので似たようなものだと思います。
経歴を遡ってみたり作品の特徴とか改めて掘り下げてみたり、文章を書いていて作品解説とは違った面白みがあって楽しかったです。次は誰にしようかな。
でもここで、所謂「監督の持ち味」を何となくの雰囲気ではなく、しっかり言語化したり監督自身の過去や経験に基づいて分析できている人こそ、その監督を緻密に語るに最も適している人なんじゃないかなぁとも思ったりします。
そこに関しては、私の敬愛する映画レビュアー・茶一郎氏には一生涯をかけても勝てないような気もする。
まだまだ実力不足ですが、精進してまいります………と、いうことで今回はこの辺で。
https://observer.com/2018/09/christopher-nolan-movies-ranked-batman-dark-knight-inception-dunkirk/
それではまた、次の映画にて。