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【最新映画レビュー】彼はどう生きたか。私たちはどう生きるか。『君たちはどう生きるか』レビュー&考察&感想

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『君たちはどう生きるか』

(”The Boy and the Heron")

作品概要

日本を代表するアニメーション会社「スタジオジブリ」最新作にして、宮崎駿監督作品。

駿監督にとっては2013年公開『風立ちぬ』以来、10年ぶりの長編監督作品となる。

「予告編を制作・公開しない」「ポスターは青鷺の絵とタイトルロゴのみ」「登場人物の紹介、及びそのキャストを発表しない」………

「宣伝をしない宣伝」という前代未聞の広報に打って出た、最早ジブリを通り越して映画業界においても一際異彩を放つ今作。

制作会社のネームバリューのみを宣伝材料とするとは、流石は天下のジブリ様としか言いようがない。

『君たちはどう生きるか』と聞くと、一部の人は吉野源三郎氏の同名著書を思い浮かべるかもしれない。

しかしながら、タイトルは同じ名前を取っているもののストーリーは全く異なり、あくまでもこの小説を読んだ主人公の心情に変化が訪れた、といった立ち位置のものとなっている。

尚、公開からしばらく経った現在は主題歌キャストが発表されている。菅田将暉あいみょん木村拓哉ほか豪華キャストが集結。

物語の内容のリークすらも一切なく「ストーリーを知りたくば今すぐ劇場へ駆け込め」というスタンスを取る今作。

故にあらすじを一文字でも喋ろうものならすぐさまネタバレ認定となってしまう為、未見の方は絶対に鑑賞してからこういったレビュー記事などをご購読いただくことをオススメする。

あらすじ

舞台は戦争が始まってから約3年後の日本。

火事で母を失ってしまった少年・牧眞人(まき まひと)は、父親と再婚した母の妹に連れられある辺鄙な田舎のお屋敷にて暮らすことになる。

そこで眞人は様々なものを目にする。お屋敷に仕える婆や達、隣に聳える古びた洋館、そして一羽の青鷺。

新しい環境に身を置くこととなった眞人は釈然としない日々を過ごす。学校では上手く馴染めず、新たな母親は中々受け入れることができず、あの洋館の中に何があるのかは分からないまま。

そんな中、不思議な青鷺は主人公に語りかける………「この奥でお母様が待っていますよ」と。

眞人は誘われるように、洋館とその中から聳え立つ塔に辿り着く。果たして眞人は死んだ母と再会できるのか?彼に待ち受ける冒険と運命とは。

見所解説①世界観全開、”ジブリ”の集大成。

『風の谷のナウシカ』『ハウルの動く城』『魔女の宅急便』………数々の不朽の名作を世に送り出し、日本のアニメーション映画を牽引してきたスタジオジブリ。宮崎駿をはじめ、様々なアニメーターがその長い歴史を紡いできた。

今や日本独自の文化として確立し世界中で広まっている「アニメ文化」、それがここまで発展したのは間違いなくスタジオジブリの影響が大きい。

早速本編の内容に踏み込んでいくが、今作の随所随所にはかつてのジブリ作品を彷彿とさせるシーンが多々登場する。

例えば戦時中という時代設定は『風立ちぬ』だ。眞人の父が務める工場で生産した飛行機の部品に対し、眞人が「美しいです」と感想を述べるシーンはまさしくその意匠を感じられる。

眞人の身体を魚と蛙が覆い始めるシーンは『崖の上のポニョ』だし、こことは別の世界を冒険した主人公が成長していく、というストーリーの流れは『千と千尋の神隠し』に通ずるものを感じる。

後述する「主人公・眞人と宮崎駿監督・幼少期のリンク」という点も含めて、今作は「”ジブリ”の総まとめ」ひいては「宮崎駿の卒業制作」といった側面が強い。

故に今作は「新規向け」というよりは「ジブリファン向け(それもかなーりコアな層の)」といった印象が強い。事実、公開直後は「訳がわからない」「こんなのがジブリ?」というやや批評寄りなコメントが多数寄せられている。

なんなら駿監督自身も「私にもよく分かっていません」と言い出す始末。果たしてこれがジブリ作品として然るべきものなのかどうか、は定かでないが………。

だがその一方で、興行的にはあの『千と千尋の神隠し』に並ぶスタートダッシュを決めたという好調な滑り出しに。やはりジブリの持ち得るネームバリューは決して馬鹿にできない………

見所解説②数多の世界に夢想を馳せた、一人の少年の歩んだ道とは。

先の文章で触れたように、今作の主人公である眞人は少年時代の宮崎駿の投影である。

父が航空機の製作工場で働いていたこと、母とは死別はしていないものの長らく会っていないこと、実家が太いこと、駿自身大人しい少年であったこと。

最早隠すまでもないほどに、眞人と駿の共通点は数多く存在する。過去作にて駿が自身を登場人物に重ねたことは何度かあっただろうが、ここまで露骨に被せてくるのは間違いなく史上初だ。

そうなると、眞人が序盤にて不思議な出来事に見舞われるのは、駿にとっての「アニメという魔法との出会い」を意味するのではないかと思われる。

まずはその発端となる青鷺との遭遇から考えてみよう。眞人はここから非日常的な出来事に出くわすこととなるが、駿にもまた日常を一気に非日常へと変化させてしまった出来事が存在するはず。

少年時代の宮崎駿における「青鷺」とは何だったのか。個人的に、駿がアニメーターを志す決定打となった作品『雪の女王』(※)がこれに当てはまるのではないかと思っている。

そしてあの摩訶不思議な世界はまさしく「ジブリ」そのものだと言える。他作品の要素を取り入れているという点も含め、あの瞬間に「眞人/駿少年」は「下の世界/ジブリ」に出会った………

これを「偶然の出会い」と言うべきか「出会うべくして出会った」と言うべきか………私個人の見解としては後者であると考えられる。駿がジブリの創設者であるということも加味して、これら二つの出会いは「必然」だったのだ。

物語の終盤、眞人は大叔父に「この世界をどうするか、君が決めろ」と告げられる。存続させるも良し、全てを消し去ってしまうのも良し、この時世界は一人の少年の手に託されたのである。

これは現実世界におけるジブリの今後の未来にも言えることなのではないだろうか。宮崎駿におけるジブリとはまさしく「どう生きたか」の証そのもの(人生の全て、とまではいかないだろうが)であり、その証を残すのか捨て去るのかは生みの親である宮崎駿の手に委ねられている。

しかし劇中では、世界は眞人の手ではなく第三者(インコの大王)の妨害によって崩壊へと至った。もしもこれが宮崎駿の予言であり、インコの大王が誰かの暗喩だとしたら中々に怖い。

個人の解釈次第で、今作が持つ意味合いには無限大の可能性を秘めている………というか先述したように、宮崎駿自身も今作を「よくわからない」と称しているのだから、最早「答えは存在しない」と言った方が正しいかもしれないまである。

皆様も是非、自分なりの今作への解釈を考えてみてほしい。

(※:ソ連製作の長編アニメーション映画。宮崎駿が東映動画に入社した1年後に本作を鑑賞して感銘を受け、アニメーターの仕事を一生の仕事にしようと志した。【引用:Wikipedia】)

個人的な感想

公開から1ヶ月弱が経ち、こうして改めて文字にして今作を語っていくうちに思ったのが「今作はジブリであってジブリでないようなもの」ということ。

言い方を変えれば、誰もが童心に帰ることができて、摩訶不思議でありながらもどこか優しさを孕んだ世界観を堪能できた、在りし日のジブリを再び劇場で見ることはもう叶わないのかなぁ、というある種の寂寥感だろうか………。

とにかく今作はジブリにしても純粋な映画作品としても異質すぎた。ストーリーも登場人物も公開前まで一切分からず、いざ蓋を開けてみると物語も難解かつ複雑で………

私としても、今作を鑑賞してやはり疑問に思う部分が多々あった………ものの、私はどうやら今作の併せ持つ世界観に郷愁に近しいものを抱いてしまったらしい。

エンディングが流れ、主題歌である米津玄師『地球儀』が流れ始めた途端、私の瞼からはが溢れ出んとしていた。

とても感動的な物語だったわけでも、特段ジブリに思い入れがあるわけでも、今作に深い意味を見出したわけでもないのに、何故。

だがその涙の中に、どこか「お別れが寂しい」という想いがあるのを私は感じた。離れたくない、できるだけこの空間に長く居たい………そんな感じ。

しかしながら、改めて客観的に今作を紐解いていくとやはり謎が多い。果たして子供はこの映画を楽しめるのだろうか?感覚としては極論『2001年宇宙の旅』に近いんじゃないか?とすら思う。

1回目は雰囲気とストーリーを感覚的に味わって、色々と自分の中で整理した後に、2回目でじっくりと味わう………という、所謂「スルメ映画」的な楽しみ方もできるかもしれない。

今作は凡作なのか、駄作なのか、或いは傑作なのか………こればっかりは私だけの価値観では到底計りかねない。

「君たちは『君たちはどう生きるか』をどう語るか」。少しでも興味のある方は是非とも劇場へ。

まとめ(あとがき)

「映画レビューは鮮度が命」だとよく聞く。これに関しては全くもってその通りであり、時間が経てば経つほど他の人が次々とレビューを投稿していき、それに応じて鮮度も下がっていく。

「今作を根底から覆すようなヤベェ考察が書けたぞー!!」と言っても、公開から1年も経っていてはただの二番煎じになっている可能性だってある訳である。

………「自分で言ってて恥ずかしくないのかよ」だって?HAHA、その通りだよジョン。

というわけで数ある映画の中でも特にレビューや考察が重要になっていくであろう今作を1ヶ月遅れで投稿という形になってしまったことを心より反省いたします。

言い訳ならいくつか用意した………学校の課題が忙しかった、ブログよりもやるべきことがあった、etc………まぁどれも詭弁に過ぎないが。

しかしまぁ、『M:I』最新作やら『TF』最新作やら比較的わかりやすい作品ならまだしも、ディープな分析と考察が必須な今作を最初に手出してしまったのは少し失敗だったかもしれない………先にやっておいて越したことはないとは思うが。

それにしても今後のジブリは一体どうなってしまうのだろうか。恐らくは宮崎駿の息子である宮崎吾朗が後を継ぐのだろうが、それにしたって少々不安感が残る。

はじめに私は今作を「宮崎駿の卒業制作」と揶揄したが、個人的にはそうであって欲しくない感がある。先述した郷愁に起因して、やはり「寂しい」という感情がどうしても私の中で出てきてしまう。

できれば彼の生涯最後の作品は、誰もが笑って映画館を後にできるような映画にして頂きたいと私は思う。決して今作がダメだったとは言わないが、個人的にジブリはできれば万人受けであって欲しいものだ。

………なんていう私の浅ましくエゴに満ち溢れた願望を語った所で、今回はこの辺で。

それではまた、次の映画にて。

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