
時の流れは早いもので、2023年も遂に半分を過ぎてしまった。
歳をとると時間の流れが早くなるとはよく言ったもので、本当に時間があっという間に過ぎていく。
まだまだ若いのに。お肌もツルテカなのに。何故。
何やら年寄りめいたことを口にしてしまったような気がするが、早速本題に入るとしよう。
今回は2023年の上半期に公開された映画をランキング形式でまとめていこうじゃないか、というものだ。
2023年の門出を飾る先駆け的な立ち位置で、上半期の映画というのはとても重要な役割を持つ。
初っ端から全速力であれば、我々観客のテンションもぶち上がりまくりだ。
「初っ端からこんなに面白い映画が観れるなんて最高かよ!!」
「前半戦でこんなに豊作揃いなら後半戦どうなっちゃうんだ!?」
………などとワクワクさせてくれる、いわば「最初からクライマックス」状態だ。
去年の上半期は、まさに最高のスタートダッシュを切った瞬間だったように思える。
ヒーロー映画の歴史にその名を永遠に刻むこととなった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や『THE BATMAN –ザ・バットマン–』、
そして世界的大ヒットを記録した「究極の続編」こと『トップガン マーヴェリック』など。
ちょうど私が映画という名の大沼にハマり始めたのもこの頃だ。去年は私にとって人生の転換期と言っても過言じゃないかもしれない。
そして今年も中々にヤバめなスタートダッシュを切っている。
アカデミー賞受賞作として話題となった『ザ・ホエール』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、『TAR/ター』は今年にようやく日本で公開。
ヒーロー映画からは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』や『ザ・フラッシュ』、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』などビッグタイトルが目白押し。
邦画の方でも、庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』や是枝裕和監督の『怪物』などが国内外で大きく話題となった。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』など、映画の歴史を塗り替えた超大作を劇場で目にすることができた、という喜びを噛み締めている。映画好き冥利に尽きる、というやつだ。
今回は、数多もの作品たちが公開された中で「あくまで私の主観で」BEST10のランキングを付けさせていただく。
この記事を読んで「この作品が入ってないのはおかしいだろ!!!」と憤る方も一定数いらっしゃるとお見受けする。
だが何度も言うように、これは私個人の価値観に基づくものである、ということをどうか理解していただきたい。
長らくお待たせした。それでは早速、2023年・上半期の総まとめに取り掛かるとしよう!!
【10位】
https://eiga.com/movie/96537/gallery/9/
『シャザム!〜神々の怒り〜』
("Shazam! Fury of the Gods")
DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)作品『シャザム!』の続編。前作に引き続き、デイビッド・F・サンドバーグを監督に、ザッカリー・リーヴァイを主演に迎えた。
前作は、ひょんなことからスーパーヒーローの力を手にした主人公ビリーの成長を描く、いわば正統派なヒーロー映画に落ち着いていた。
一方今作はスケールがさらに広がり、相手は正真正銘の「神様」に。それと同時に、ビリーだけでなく家族全員がヒーローに変身するという、さながら『パワーレンジャー』のような戦隊モノを彷彿とさせる作りになっていた。
そして前作からやや不足気味だったCG・VFXが、今作では大幅に進化。シャザムのスーパーパワーをフル活用した大迫力なアクションは必見。
終盤の激アツな展開も含め、前作同様いい意味で正統派なヒーロー映画に仕上がっていた。結局こういうのでいいんだよ、こういうので!!
【9位】
https://eiga.com/movie/99032/gallery/12/
『AIR/エア』
("Air")
シューズブランド「NIKE」を代表するシリーズ「AIR ジョーダン」の誕生秘話を描いた物語。
監督は『アルゴ』『ゴーン・ガール』のベン・アフレック(本編の主要人物としても登場)、主演は『オデッセイ』『フォードvsフェラーリ』のマット・デイモン。
NIKEのキャッチコピーを諸君はご存知だろうか。「JUST DO IT(とにかくやってみよう)」………今作は、この言葉をまるごと映像にしたかのような映画となっている。
舞台が80年代ということで、当時のポップカルチャーをダイジェストで振り返るようなオープニングには非常に引き込まれること間違いなし。
当時をリアルタイムで過ごしていた人ならばこの導入はたまらないだろうなぁ、と比較的現代っ子の私がふと呟いてみる。
知っての通り「AIR ジョーダン」とは、伝説のバスケットボール選手マイケル・ジョーダンとNIKEが奇跡のコラボを果たして作られたものだ。
誕生から約40年経った今も尚、多くの人から愛されている製品だというのは最早言うまでもない。
マイケル・ジョーダンとNIKE、二つの伝説が交わった「伝説的瞬間」………それが実現するまでに、一体どんなプロセスがあったのか。
ジョーダンの母親の信念、或いは主人公ソニーの諦めない心。そんな登場人物たちが織りなす言動や心情の吐露、それによって紡がれる「過程」がとにかく「アツい」。
まさに「JUST DO IT」という言葉をそのまま体現したかのような熱血ドラマ。現在Amazon Primeで独占配信中なので、是非。
【8位】
https://eiga.com/movie/98367/gallery/22/
『怪物』
("Monster")
『万引き家族』で話題となった是枝裕和監督による最新作。脚本を『花束みたいな恋をした』の坂元裕二、音楽を世界に誇る音楽家である坂本龍一が担当した。
『怪物』なんていうタイトルがついているからには、登場人物の誰かが「怪物」と呼ぶに値する恐ろしい人物像を有しているのは言うまでもない。
だが今作では、その「怪物」と呼ばれる人物を1人に絞っていない。怪物とは子供のことか?あるいは子供の母親か?それとも学校の先生?
ハッキリ言って、この問いに明確な答えはない。だが敢えて答えを述べるとするならばそれは「全員」だろう。
登場人物の全員が怪物であり、怪物ではない。一方の視点ではその人は誠実かつ純粋な人物に見えるが、もう一方の視点ではその人は思わず忌避してしまうような異常な人物に見えてしまう。
まさに洗練された脚本………そんな緻密な作りが評価され、第76回カンヌ国際映画祭では見事脚本賞を受賞した。
そういったミスマッチも相まって、物語前半は大人たちによるドロドロな群像劇が繰り広げられることとなる。
モンスターペアレント、いじめの隠蔽、曖昧な態度しか示さない教師………劇中、何度顔を顰めたことか。
だが引き伸ばされたゴムが一気に弾け飛ぶかのように、後半は少年2人によるジュブナイル的ドラマが繰り広げられる。
前半では夜・雨・曇り空と暗めだった物語の「色」が、後半では直視できないほどの「明るみ」を帯び始める。
木漏れ日に包まれた森、ぽつんと佇む廃棄された列車、秘密基地に灯されるイルミネーション。「前半と後半で違う映画を上映してるんじゃないか??」と錯覚してしまうほどに、そのギャップは凄まじい。
嵐の後の快晴のように、我々の心の中に立ちこめる霧を晴らすが如き「光」と「愛」に満ち溢れたラストシーンには思わず涙してしまう。
どんなに悲しくても、この世界に在り続ける「怪物たち」の顛末を、是非この目で見届けて欲しい。
【7位】
https://eiga.com/movie/83919/gallery/13/
『ザ・フラッシュ』
("The Flash")
アメコミといえば「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」をはじめとするMARVELのイメージが強いが、競合社であるDCコミックスの存在も忘れちゃいけない。
DCコミックスと聞くとDCEUの失敗が大きく見られがちだが『ジョーカー』や『アクアマン』など単独作で成功している事例もしっかりと存在する。
今作は『ジャスティス・リーグ』にて初登場した「地上最速のヒーロー」ことフラッシュ(バリー・アレン)を主人公に、
1989年公開『バットマン』のバットマン(ブルース・ウェイン)やスーパーマンの従姉妹であるスーパーガール(カーラ・ゾー=エル)も登場する超豪華仕様。
監督には『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり』のアンディ・ムスキエティを迎えた。サム・ライミやジェームズ・ワンなど、ホラー映画畑の監督がヒーロー映画を手がけるのも今となっては珍しくない。
主演はエズラ・ミラー………数々のスキャンダルが原因で「問題児」と称され一時期は今作の主演を降板させられていたのだが、なんとかこうしてエズラを主演に迎え公開に辿り着くことができた。
まさに文字通りの「オールスター大集合」を果たした今作、その様は物語の流れが似ているという部分も含め『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を彷彿とさせる作りだ。
だがそんな壮大な冒険譚の一番奥底には、ただただ純粋な「母への愛」があった。ただもう一度だけ母に頭を撫でられたい、家族みんなで食卓を囲みたい………
母を早くに喪ってしまったバリーだからこそ抱いた、あまりにも儚く真っ直ぐな「願い」。
その眩さはテーマの一つである「マルチバース」や「タイムパラドックス」といった小難しい設定なんかどうでも良く思えてしまうほど。
しかしながら、そんなバリーの願いにベン・アフレック扮するブルースは言う………「もし両親を目の前で殺されていなかったら、私はバットマンになっていなかった」と。
ヒーローがヒーローであるためには、必ず自分の大切な「何か」を失わなければならない。
バリーもまた「フラッシュ」というヒーローに、ひいては大人へと成長するために「何か」を捨て去らなければならない。
ただの大団円的ヒーロー映画ではなく、子供が大人へと成長する過程を描いた「成長物語」としての側面を持つ『ザ・フラッシュ』。
他にもDC映画を長らく触れてきた人たちにしか分からないような超マニアックな小ネタも取り揃えており、とにかくゴージャスな作りとなっている。
貴方もフラッシュと共に、今作を劇場で駆け抜けてみては如何だろうか。
【6位】
https://eiga.com/movie/98652/gallery/18/
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』
("Fast X")
世界中で絶大な人気を博しているカーアクション映画『ワイルド・スピード』シリーズの(ナンバリング上)記念すべき10作目が公開された。
カッコ良さとダサさがいい塩梅で組み合わさった毎回恒例の邦題、今回は『ファイヤーブースト』。うーん、ワイスピらしくて好き。
監督には『トランスポーター』シリーズや『グランド・イリュージョン』を手がけたルイ・レテリエが抜擢され、ヴィン・ディーゼルやミシェル・ロドリゲスをはじめとする主要キャスト、通称「ファミリー」も集結。
『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソン、『アクアマン』のジェイソン・モモアも参戦するなど、新キャストも豪華絢爛。
シリーズを追うごとにアクションが派手に進化していき、最早カーアクションを通り越した何かとよく称される『ワイスピ』シリーズだが、今作もその例に漏れずアクションが笑っちまうほどに大胆に。
車のワイヤーでヘリを引っ掛けて墜落させる、背後から迫り来る爆風でスピードにブーストをかけダムの斜面を走る………
この世界の物理法則はどうなっているのかだって?愚問だな、最初からどうかしてるに決まってる。
そして今やシリーズの名物と化した「後付け設定」は今作でも健在。今作の悪役である、ジェイソン・モモア演じるダンテ・レイエスは『〜MEGA MAX』の悪役であるエルナン・レイエスの息子として登場。
故に今作の冒頭では『〜MEGA MAX』におけるドムとブライアンによる銀行強盗のシーンにダンテが加勢していた、というシーンが付け加えられている。
前作『〜ジェットブレイク』でのハンの生存といい、上手い具合にこじつけたなぁ………と痛感せざるを得ない。
他にも超弩級のサプライズたちが作中にて起こったわけだが………その真偽は今は伏せておくとしよう。最高にクレイジーでファーストでフューリアスな狂奏劇に、目が釘付けになること間違いなしだ。
もうそろそろ劇場公開も終わっちゃう気がするので、気になってる人は是非。
前シリーズ計9作品を全て履修せねばならない、というのは中々にハードルが高いような気もするが………笑
【5位】
https://eiga.com/movie/95011/gallery/15/
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
("Guardians of the Galaxy Vol.3")
今や現代の映画を語る上で欠かせない存在となったMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)から最新作が登場。
2019年公開『アベンジャーズ/エンドゲーム』で究極の大団円を迎えた一方、その後のシリーズ展開の影響で人気はやや迷走気味に。
2023年一発目、そして新たなる物語《フェーズ5》の幕開けとなった『アントマン&ワスプ/クアントマニア』は商業的にも批評的にも著しく微妙な結果となり「この先、MCUは大丈夫なのか?」と危ぶまれることとなった。
そんな窮地に陥ったMCUを、まさに破竹の勢いで一気に軌道に乗らせたのが今作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』だ。
MCUの中でも屈指の人気シリーズである『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(以下『GotG』)シリーズの第3作目にして最終回でもある。
監督はいつも通りジェームズ・ガン。『ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結』を撮影した後にDCフィルムズのCEOに就任し、最近は「DCユニバース」の構築にお熱なガン監督が、『GotG』の終幕に満を持して参戦した。
クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、ブラッドリー・クーパー、ヴィン・ディーゼルなど、面白おかしく時に真面目に『GotG』の世界観を彩ってきたメンバーもしっかりと集結。
『GotG』の魅力として第一に挙げられるのが、シリーズにおいて一貫した「明るさ」だろう。
ジェームズ・ガン監督特有の作風によるものというのもあるが、他のMCU作品とは一線を画す「軽いノリ」は言うまでもなく『GotG』唯一無二の特徴だ。
この「ノリ」が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』や『〜エンドゲーム』にも侵食してくる、というある意味恐ろしい特徴。
一方、今作の作風は従来のシリーズと比べややシリアス気味だ。物語の主軸としてはオリジナルメンバーであるロケットの過去にフォーカスを当てる、というもの………
所々にドラックスらをはじめとするメンバーのショートコント的なギャグは挟まれるものの、基本的には神妙な空気が劇中ずっと漂っている。
加えて悪役のクズっぷりも歴代最高級だ。前作『GotG VOL.2』のヴィラン「エゴ」も中々のクソ野郎だったが、今作のヴィラン「ハイ・エボリューショナリー」はエゴのそれを軽く凌駕しているとさえ思う。
そんな『GotG』らしからぬ重たい霧の中を潜り抜け………その先に待っていたのは誰もがハッピーになれる最高のエンディング。
たとえガーディアンズたちが離れ離れになろうとも、それぞれがそれぞれの「居場所」を手にいれることができた………
これ以上にない、全員が笑顔で劇場を後にすることができる、絵に描いたような「ハッピーエンド」に何度涙腺が緩んだことか。
ラストのあのサプライズも含め、まさに『GotG』のフィナーレに相応しい幕引きだ。
【4位】
https://eiga.com/movie/98124/gallery/22/
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
("The Super Mario Bros. Movie")
最早世界一有名なゲームキャラクターと言っても過言ではないかもしれない、任天堂の代表的なマスコットであるあの「マリオ」がまさかのハリウッド映画化。
声優としてマリオに『GotG』『ジュラシック・ワールド』のクリス・プラット、ピーチ姫に『ウィッチ』『ザ・メニュー』のアニャ・テイラー=ジョイが参加している。
この映画を端的に言い表わすのならば、私はこう言おう………「豪華絢爛ここに極まれり」と。
ゲームが原作の作品を映画化するにあたって必要不可欠なファンへのサプライズと、アニメ映画ということでファミリー層にウケやすい親しみやすさを、今作は全て網羅してしまっているのだ。
そもそも開発に携わったメンツが半端じゃない。『ミニオンズ』『ペット』シリーズを手がけたイルミネーションと任天堂がタッグを組み、更にマリオやドンキーコングといった任天堂を代表するキャラクターたちの生みの親である宮本茂氏が製作を担当。開発陣のホンキ度がヤバすぎる。
作中におけるサプライズ要素に関して、そのレベルは最早神の領域に至っていると言ってもいいかもしれない。
マイナーな敵キャラからゲーム内で使用されていた音楽、その細部に至るまで緻密に描写されている。
伝説の名(迷)作『スーパーマリオ 地下帝国の女神』までオマージュしてくるなんて一体誰が予想できただろうか。今作の公開後に『〜地下帝国の女神』のブルーレイがAmazon売上ランキング1位に輝いたのも頷ける。
そんでもって、作品自体も非常〜〜〜に観やすい構成になっているのもまた素晴らしい。
上映時間も2時間未満とちょうど良く、話の構成も単純明快、アニメーションも丁寧に描かれているなど、ライト層向けの映画として完璧と言っても差し支えない完成度を誇っている。
何よりも恐ろしいのは、原作ファンへのサプライズをあれだけ詰め込んで2時間未満にしっかりと物語が収まっちゃってること。
初見さんから重度のオタクまで全員を喜ばせる、そんな映画ができてしまったというのは実はとんでもないことなのではないかとふと思ってしまう。
公開されるや否や全世界で爆発的な大ヒットを記録するなど、その反響は凄まじい。忖度なし&全力でオススメできるので、未見の方は是非。
【3位】
https://eiga.com/movie/97881/gallery/24/
『バビロン』
("Babylon")
『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督の最新作。
舞台は30年代のハリウッド、映画が無声《サイレント》から有声《トーキー》へと姿を変える、まさに激動の時代を鮮烈に描いた作品。
今作を端的に言い表すのならば『雨に唄えば』の裏側といった所か。ミュージカル映画最高傑作と称されるあの作品が、凄まじくお下品になって現代に蘇ったといった感じ。
開始数分で象の糞をぶっかけられ、その後まさに「酒池肉林」という言葉に相応しい、カオスに満ちたパーティ会場を「オープニングで」見せられる今作。
そこで光るのがチャゼル監督の盟友であるジャスティン・ハーウィッツの音楽。軽快なドラムのビートと高らかに鳴り響くトランペットとサックスの音から生み出されるハーモニーに、自然と肩を揺らしてしまうこと間違いなし。
映画に「音」が加わったことで、監督も役者も製作も、その全てが「変化」を余儀なくされた。
情熱と喧騒に満ち溢れたサイレント映画の撮影現場から一転、焦燥と苛立ちがじわじわと押し寄せてくるトーキー映画の撮影現場へと移り変わるシークエンスに思わず顔を顰めてしまう………「これが「変化」というものなのか」と。
また、この「変化」に基づき、かつては栄光の頂点に君臨していた数多くのスターたちが振るい落とされていく、あるいは返り咲いていく様も描写されていく。
「ハリウッドには変化が必要だ」と豪語していたサイレント映画のスターが、いざトーキーへと変化した途端スターの座から引き摺り落とされていく様は何とも複雑だ。
音楽、映像、脚本、その全てが目まぐるしく常にカオスへと「変化」し続ける、良くも悪くも『ラ・ラ・ランド』を撮った監督とは思えない異作中の異作。
事実、今作は同監督の他作品と比べ不評気味な評価へと落ち着いている。だがどうしてか、そういった映画は時として誰かの心に深く突き刺さるのである………そう、私がそうであるように。
とっ散らかっているかもしれない、下品に思うかもしれない、だがかつてのハリウッドにおける「変化」を、今作は劇的なまでに「鮮烈」に表現してみせた。
「変化」から成る狂騒と、その中に秘められし「時代が終わってしまった者達」の哀愁。しかしそれがハリウッド、即ち「映画」という世界において欠いてはならない「運命」なのである。
激動と波乱に満ちた、在りし日のハリウッド、その栄枯盛衰を見届ける覚悟はあるか。
【2位】
https://eiga.com/movie/94843/gallery/10/
『シン・仮面ライダー』
("Shin Kamen Rider")
『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続き、『新世紀エヴァンゲリオン』庵野秀明による昭和特撮シリーズのリブートが今年も登場。
今も尚人気シリーズとして放映されている『仮面ライダー』シリーズ、その原点であるタイトルのリブート、それが今作『シン・仮面ライダー』だ。
平成『ガメラ』シリーズにて特撮監督を務め、庵野秀明監督作品でも必ず開発に携わっていた樋口真嗣が今回は不在。これにより撮影現場は庵野秀明の傍若無人っぷりにより混迷を極めていたという。
庵野秀明監督の単身かつ実写の作品となるのは、2004年公開『キューティーハニー』以来となる。
「仮面ライダー」の変身者である「本郷猛」のイメージとして強いのは言わずもがな藤岡弘だが、今作では池松壮亮が本郷猛/仮面ライダーとして出演。
仮面ライダーの大いなる力に思い悩み、それでも世界の平和のためにショッカーと戦い続ける彼の苦悩と悲哀を緻密に描いていた。
今作はとてもじゃないが言葉にし難い要素を多く含んでいる。アクションからドラマパートに至るまで、決して「完璧」とは言い難い………
のだが、その「不完全さ」が私の性癖に強くぶっ刺さってしまったのである。喜ばしいことに(?)
正直、今作の総合的な評価はあまり芳しくない。まさに文字通りの「賛否両論」状態だ。
100点満点中の120点か10点か………そんな映画。そして私の性癖は、見事に前者である120点を叩き出してしまったのである。
では具体的に何が私の性癖へ深く突き刺さったのだろうか。仮面ライダー第1号/第2号のビジュアル?怪人たちとの戦い?ダブルライダーの同時変身ポーズ?
敢えて言おう「その全て」であると。コートをたなびかせながら変身し、闇夜に爛々とした眼を輝かせ、鮮血を撒き散らしながら敵を屠り、トドメのライダーキックを叩き込む………これを「カッコいい」と言わずしてどうするか。
特に序盤の「vsクモオーグ」は原作再現も含め至高の戦闘シーン。セリフに昔の特撮っぽさが残っているのもまた良い。
決して万人受けはしないであろう今作、だが私にとっては一生忘れることのないであろう映像体験となったのである。
【1位】
https://eiga.com/movie/96269/gallery/34/
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
("Spider-Man: Across the Spider-Verse")
激動の2023年上半期、その中でも(私個人の中で)トップに輝いたのは今作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』だ。
2018年公開『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編となる今作。「マルチバース」を全面的に押し出した世界観は前作よりもパワーアップし、総勢200を超えるマルチバース中のスパイダーマンたちが集結。
「そのスパイダーマンがいた次元に則ってスパイダーマンたちの絵のタッチを変える」という狂気じみたアニメーション作画も大幅な進化を遂げ、同時にアクションもよりスピーディかつ爽快に。
だが今作の真髄はそれだけじゃあない………これは今までのスパイダーマンたちが辿った「悲しき運命」を変える物語なのだ。
ベンおじさんの死、グウェン・ステイシーの死、かけがえのない友人たちの死………それらを受け入れることで、彼らは真の「スパイダーマン」となれる。
だが、今作の主人公であるマイルズ・モラレスはこう誓った………「運命なんてブッ壊してやる」と。
大切な人も世界も両方救ってみせる、それこそが真のヒーロー、真の「親愛なる隣人」スパイダーマンである、と。
長らく続いてきたスパイダーマンたちの映画、そして彼らが辿った運命を、たった一人のスパイダーマンが「変える」………
一つのヒーローの「物語」「運命」「カタルシス」を永遠に変える、という衝撃的展開。アニメーション映画という枠組みさえも飛び越え、アメコミ映画の歴史そのものを永遠に変えてしまうような作品だ。
もはや、今世界で最も続編の期待が高まっている作品と言っても過言ではないだろう。次回作『〜ビヨンド・ザ・スパイダーバース』が楽しみで仕方ない。
先日、現在ハリウッドで行われているストの影響で公開延期が発表されてしまったが………素晴らしい出来となる作品と信じて、気長に待つとしよう。
まとめ
………というわけで2023年上半期をまとめてみた訳だが、如何だっただろうか。
こうして見ると、春のアニメーション映画ラッシュは特に特筆すべき事項だろう。
『ザ・スーパーマリオ・ブラザーズ・ムービー』『〜アクロス・ザ・スパイダーバース』が2ヶ月連続で公開されたという、マリオで言う所の「スター状態」ばりの無敵ムーブ。
MCUも『〜クアントマニア』で今後の行先が危ぶまれた後に『GotG3』で凄まじい盛り返しを見せてくれた。次の劇場公開作品は『マーベルズ』………果たして吉と出るか凶と出るか。
一方、DCUは『ザ・フラッシュ』の興行不振で少々低迷気味の模様。本国では近々公開の『ブルービートル』で盛り返せるか!?と言った所か。私としては早く日本公開して欲しいものだが………。
また『シン・仮面ライダー』や『バビロン』など、監督のネームバリューも起因して話題にはなったものの全体的には賛否両論気味に落ち着いてしまったものもチラホラ。
これに関して、個人的な意見としてはサイッコーにクレイジーでエキサイティングな映画体験だったと胸を張って言える。
………さてさて、上半期が終わりましていよいよ始まる下半期。ストやらでハリウッドは波瀾万丈極まりない状態だが、『M:I』最新作にスタジオジブリの宮崎駿最新作に『トランスフォーマー』最新作と、またもや凄まじいスタートダッシュを拝むことができる模様………
と言いたい所なのだが、簡潔に言うと私は凄まじく流行に乗り遅れている。『M:I』最新作は公開から既に二週間が経っているし、アタフタしているうちに『トランスフォーマー』最新作も始まってしまった。
これは大変由々しき事態である。一刻も早く更新ペースを上げねば………ゲームなんてやってる場合じゃないのかもしれない。
と、言う訳で今回はこの辺で。皆様、下半期もよきムービー・ライフを。

それではまた、次の映画にて。