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『アステロイド・シティ』
(”Asteroid City")
作品概要
『グランド・ブダペスト・ホテル』などに代表される、カラフルな可愛らしい世界観が特徴的なウェス・アンダーソン監督、その最新作。
今作は何と言ってもキャストが非常〜〜〜に豪華。『ブラック・ウィドウ』のスカーレット・ヨハンソンに『フォレスト・ガンプ/一期一会』のトム・ハンクスに『ファイト・クラブ』のエドワード・ノートンらが出演。
他にもウィレム・デフォーにマーゴット・ロビーにジェフ・ゴールドブラムと、その様はまさしく豪華絢爛。
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従来の作品らしく、監督の特徴が顕著に現れた作風や美術は今作でも健在。
しかしその一方で、ストーリーは非常に難解。何せ今作『アステロイド・シティ』は「演劇」と「その制作過程」の二つのパートで分かれており、その上物語も哲学めいたものとなっている。
カラフルな映像の「演劇パート」と、モノクロの映像の「制作過程パート」。予告編ではここでいう「演劇パート」の紹介しかなかったので、拍子抜けした人はきっと数え切れないだろう。
カラフルとモノクロが交互に入れ替わる、という演出は何だかクリストファー・ノーラン監督の『メメント』を彷彿とさせる。
「愛」「郷愁」「演劇」と、多種多様なテーマが散りばめられた今作。果たしてそれら全てを読み解くことは可能なのか………。
あらすじ
時は1950年代のアメリカ、劇作家のコンラッド・アープはある演劇を作り出そうと画策する。その名も『アステロイド・シティ』………。
劇中では、秀才な子供たちの研究成果の授賞式を開催すると言うことで、様々な人たちが町へ集う。戦場カメラマン、大女優、天文学者、教師………。
しかし彼らにはそれぞれ問題を抱えていた。それは母親の死であったり、親子の関係であったり、或いは恋に思い悩んだり。
そんな中、町の重要な文化財である「隕石(アステロイド)」を狙って、UFOから宇宙人がやってくる。これにより町は軍の手によって閉鎖、町の人々はしばらくの間外に出られなくなってしまう。
果たして彼らの運命の行く末とは。そしてコンラッドはこの作品を作り上げることができるのか。クスリと笑えて、でもちょっぴり切ない、摩訶不思議なコメディが今始まる。
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見所解説①映像と演出で堪能する「ウェス節」
ポップで愛らしい世界観が特徴的なウェス・アンダーソン監督。
『ムーンライズ・キングダム』『グランド・ブダペスト・ホテル』など、数多くのヒット作を手掛け「ウェス節」は今や世界的に人気を博している。
今作においてもその特色は健在。ましてや今作の舞台「アステロイド・シティ」は「演劇上の舞台」という設定であり、その作り物感が逆にウェス節との相乗効果を成していると言える。
そして映像だけでなく、演出でも個性を出していくのが「ウェス節」の真骨頂。小難しいがシュールで、大爆笑とはいかずともクスリと笑える会話劇。
筆者はウェスの他作品を全く観ていないので細かいところまでは至らないが………。
そう言う意味では、コメディ映画が廃れつつある昨今においてウェスの映画は革命的と言えるかもしれない。
今作のストーリーは言うまでもなく難解だが、美術や演出を表面的に楽しむのもまた一興かもしれない。
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見所解説②その根底にあるのは「郷愁」か「愛」か
あまりの難解さにウェス・アンダーソン版『2001年宇宙の旅』と言っても過言ではないかもしれない今作のストーリー。真髄を解き明かすような考察はできないが、今一度軽く紐解いてみようと思う。
まずモノクロの映像における主人公………劇作家コンラッドがウェスの写し身であることは間違いないだろう。劇のパートがカラフルなのも、それはウェスの手がけた作品たちそのものを表している。
劇中に登場する宇宙人がアニメーション調なのも、『犬ヶ島』をはじめとするウェスの長編アニメーション作品を模っているものと思われる。
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劇中において、登場人物たちは「愛」を知っていく。戦場カメラマンと女優、少年と少女、そしてコンラッド自身さえも。
この「愛」というテーマは映画において非常に普遍的かつ重要なテーマだ。「愛」が映画にとって必要不可欠な時代、即ち50年代のアメリカひいてはハリウッドを舞台にしたのも俄然納得がいく。
『風と共に去りぬ』『ローマの休日』など、後世まで語り継がれる名作たちが生まれた、まさにハリウッドの黄金期。
そしてウェスは、そんな50年代のアメリカに「郷愁」に近い感情を抱いていたのだろう。可愛らしさと同時に若干の古臭さを感じる舞台ひいては映画のセット、良くも悪くも淡白な印象を受ける俳優たちの演技………それら「過ぎ去りし者達」に、彼は想いを馳せていたのかもしれない。
劇中の登場人物の全員が町から立ち去り、モーテルの満員の表示も無くなった砂塵の舞う無人の町で、やけに明るいエンディングテーマが流れる………そんなラストに一抹の寂しさを覚えたのも事実。
果たしてこれを「郷愁」と呼んでいいものなのか定かではないが………この寂寥感こそがウェスの描きたかったものなのではなかろうか。
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個人的な感想
今作を表面的にでしか語れないことに若干の悔しさを覚えつつも、それにしたって何にもわからなすぎるので何とも言えない状態。
とあるレビューサイトによれば「ウェス・アンダーソンを熟知していなければただの俳優の無駄遣い」と批判されている模様。ウェスには悪いが、概ね納得かもしれない。
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謎は色々あるが、何よりも理解できなかったのは終盤の「目覚めたければ、眠れ」という言葉。この言葉に監督が今作に込めた意図、その全てが込められているというのは一目瞭然なのだが………如何せん理解不能だ。
演出とは視覚的に感じるものとは限らない、というメッセージなのか………いずれにせよ、いくら頭を捻らせても私には理解できなかった。
監督の過去作たちを履修し、その上で何回か今作を観返して、ようやく今作を真の意味で理解することができるのだろう………まぁ、公開前と公開後のギャップがあまりにも大きすぎる故、その構成もどうかと思うが。
せめて予告編等の宣伝はどうにかならなかったのだろうか。事前に情報を仕入れ騙されなかった人は果たしてどれぐらいいるのだろう………。
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と、色々と中々に小難しい今作『アステロイド・シティ』ではあるが、意外にも「映画を雰囲気で楽しめる人(筆者含む)」にはおあつらえ向きな作品だったのではないかと個人的に思っている。
50年代のアメリカが放つ郷愁と、ウェス・アンダーソンの繰り出すポップな映像と演出。ストーリーを骨の髄まで理解できずとも、表面的であれ今作を「楽しむ」ことができたのであればそれで良いのでは?と思う訳である。
捉えようによっては思考放棄に近いが。いやまぁ実際そうな節はあるんだけれども。
まとめ(あとがき)
9月もいよいよ終幕を迎えつつある。いやぁあまりにも早すぎる。時の流れとは、げに無情也。
正直、今作を取り上げるべきかどうか非ッッッ常に迷った。何せ本当にワケワカメな状態で考察も全く浮かび上がらないし。まぁ前々から取り上げたいと思っていたし、スルーするのは個人的に釈然としないんで書いたけれども。
やはり、今作の公開前にウェスの作品を一つでも観ておくべきだったか………ちょびっと失敗。
9月公開の映画といえば『ホーンテッド・マンション』『ジョン・ウィック:コンセクエンス』『グランツーリスモ』と色々あるが………果たして追い切れるだろうか。
どうやら再び私の手腕が試されるようだ。結局のところ全てなぁなぁで終わっているような気もするが。
と、いうわけで今回はこの辺で。
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それではまた、次の映画にて。