
DCEUとは
今やハリウッドにおいて普遍的な存在となった「アメコミ映画」というジャンル。
アメコミ映画、と聞くと真っ先に思い浮かぶのは、やはりMARVELコミックによる「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」の存在だ。
であれば、アメコミ映画の礎を築いたのもまたMARVEL………ではなく、MARVELと双璧をなすアメコミ出版社であるDCコミックスである。
1941年に公開された、DCコミックス原作の『キャプテン・マーベルの冒険』が、世界初のアメコミ映画とされている。
今回紹介するDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)は、ワーナー・ブラザース及び『300〈スリーハンドレッド〉』のザック・スナイダーの手によって創立された、
MCUと同じく複数の作品に共通した世界観を有する、クロスオーバーの方式を取るシリーズである。
ヘンリー・カヴィル、ベン・アフレック、ガル・ガドット………他にも多数の著名なキャストたちが、この壮大なるユニバースに参加した。
複数の作品が、やがて一つの作品へと徐々に集結していく…………このDCEUもまた、MCUの爆発的なヒットの流れに則って計画された大規模プロジェクトである。
スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンらDCを代表するヒーローたちが一堂に会する………発表当時、ファンたちは大いに心を躍らせたことだろう。
………がしかし、ことあるたびに人気が低迷し始める、中々不憫なシリーズでもある。理由は主に「雰囲気が暗い」「ストーリーの組み立てが雑」などなど………
現在は『GotG』のジェームズ・ガンの手により「DCユニバース」へリブートされることが決定。DCEUに登場したキャストも一新される予定だ。
ものの10年で、その幕を閉じることとなってしまったシリーズ。しかしながら、アメコミ界隈に与えた影響力は計り知れないのもまた事実。
その壮大なる歴史、もとい神話を、じっくりと遡っていくとしよう。
①その男は神か、悪魔か、救世主か。『マン・オブ・スティール』
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『マン・オブ・スティール』
(”Man of Steel”)
あらすじ
地球から遠く離れた惑星、クリプトン星は、エネルギーの枯渇で滅亡の危機を迎えようとしていた。
ジョー=エルとララ・ロー=ヴァンは、2人の子供であるカル=エルを資源の豊富な地球へと送り出すことに成功する。
だがクリプトン星では、ゾッド将軍らによるクーデターが発生していた。ジョー=エルを殺害したゾッド将軍は、クリプトン星を飛び立ったカル=エルを追うべく、地球に向かわんとしていた。
長き時を経て地球へ到着したカル=エルは、ある片田舎に住む夫婦に拾われ「クラーク・ケント」という人間としての名を授かる。
年月は流れ、健やかに育っていくケント。だがその一方で、己のうちに隠された未知なる力の使い所に戸惑っていた。
そんな中、名付け親のジョナサン・ケントから、自身が乗っていたポッドに入っていたコマンドキーを渡される。
「使命を知る時が来た」………その言葉通りに各地を放浪していたクラークは、やがてクリプトン星の宇宙船へ辿り着く。
意識のみを投影したホログラムとして、クラークと再会したジョーは語る………「お前こそが希望の象徴だ」と。
エル家の紋章である「S」の字、赤と青のスーツ、たなびくマント。クラークは、自身が世界を救う唯一無二の存在だということを知ったのだった。
だがその最中、ゾッド将軍率いるクリプトン星の軍勢が地球に到着。地球を第二のクリプトン星へと改造するべく、侵略に乗り出すゾッド。
己の使命を知ったクラークは、「スーパーマン」として世界を救うべく、飛び立つのだった。
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作品解説
記念すべき第1作を飾ったのは、DCコミックスもといアメコミそのものを代表するスーパーヒーロー、スーパーマンだ。
過去に何度か実写化している『スーパーマン』。今作はDCEUの始動に先駆け、リブート作品として制作された。
監督には、過去にもDCコミック原作の映画である『ウォッチメン』を手がけたザック・スナイダーが抜擢された。DCEUを開設したのも彼である。
そして原案・製作には、あの『ダークナイト』を手がけたクリストファー・ノーランも。心なしか、彼独特の作風が今作にも滲み出ている気がしてならない。
主役となるクラーク・ケント/スーパーマン役を、ヘンリー・カヴィルが担当。『007』のジェームズ・ボンド役のオーディションにて、最終選考まで上り詰めた名優だ。
他にもエイミー・アダムスやラッセル・クロウ、ローレンス・フィッシュバーンやケビン・コスナーらが出演。DCEUの華麗なる門出を、豪華キャスト陣が出迎える形となった。
『スーパーマン』の映画と聞かれ、第一に思い浮かべるのはやはりクリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』(1978)だろう。
ジョン・ウィリアムズによるあのテーマ曲が有名な、ヒーロー映画の金字塔的な作品だ。
ストーリーもまさしく王道であり、「スーパーマン=希望の象徴そのもの」というイメージは、いつしかより強固なものとなっていた。
しかしその一方で、この『マン・オブ・スティール』(以下『MoS』)は打って変わってダークな雰囲気が際立っている。
スーパーマンのスーツはコミック由来の色鮮やかなものからシックな落ち着いた色合いへ。先述したジョン・ウィリアムズによる楽曲も流れず、ハンズ・ジマーによる壮大な音楽が流れるように。
ここまでシリアスな『スーパーマン』を、果たして今まで観たことがあっただろうか………シリーズモノ最初の作品とは到底思えないほどに、その試みは非常に斬新だ。
それが起因してか、今作の評価はやや賛否両論気味。「こんなのスーパーマンじゃない!!」と声を上げた人も多数いた模様。
だがそれは「今まで誰も観たことのない『スーパーマン』の世界観」という裏返しでもある。のちに「スナイダー・バース」と呼ばれた、大いなる神話の始まりだ。
スナイダーとノーランによる、暗いトーンからなる独特の作風、そして圧倒的迫力のCG技術を以てして描かれる、スーパーマンの果てなき死闘。
壮大なる神話の、壮大なる始動の物語。これぞ、ザック・スナイダーによる「新たなるアメコミ神話」の始まりだ。
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②衝突する「正義」と「正義」。『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』
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『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』
("Batman v Superman: Dawn of Justice")
あらすじ
スーパーマンとゾッド将軍の死闘からしばらく経ち、スーパーマンはヒーローとして世界中で活躍していた。
人々はスーパーマンを「救世主」或いは「神」として崇める一方、あまりにも強大すぎる力を持つことから「人類に仇なす存在」として恐れていた。
大富豪にしてゴッサムシティの守護者、ブルース・ウェイン/バットマンは、そんなスーパーマンを危険視。いつか彼が人類に歯牙を向けたその瞬間、世界は滅亡すると疑いを持っていた。
スーパーマンは人類の味方か、或いは敵か。緊張が高まる中、レックス・コープの社長であるレックス・ルーサー・Jrは、クリプトン星からの宇宙船に保管されていた物質「クリプトナイト」を狙っていた。
クリプトナイトはスーパーマンらクリプトン人を弱体化させる効果があり、ブルースはこれをスーパーマンに対する抑止力として活用しようと画策。
スーパーマンを偽りのヒーローとして仕立て上げ、窮地へ陥れようとするレックス。やがてその目論見通り、スーパーマンとバットマンは衝突することに。
正義とは何か、悪とは何か。世界の命運を分ける、世紀の戦いが始まろうとしていた。
https://eiga.com/movie/79813/gallery/
作品解説
「鋼鉄の男」スーパーマン、「闇の騎士」バットマン。DCコミックスを代表する二大ヒーローが、遂に激突。
クラーク・ケントことスーパーマンを演じるヘンリー・カヴィルや、その恋人であるロイス・レイン演じるエイミー・アダムスは続投。
「最も実写化されたスーパーヒーロー」であるバットマン役には、マイケル・キートン、クリスチャン・ベイルに続き、新たにベン・アフレックが担当することとなった。
そのマッチョぶりは歴代No.1。筆者としても初めて映画で見たバットマンな為、とても印象深い。
前作に引き続き、ザック・スナイダーが監督に就任。クリストファー・ノーランもまた、製作総指揮として参加している。
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前作『MoS』にて発揮されていた、ダークネスなヒーロー映画(題して"スナイダー節")スタイルは継続………というより、むしろ倍増していると言える。
ただでさえ元からダークな雰囲気を纏っているバットマンに至っては「長年ヒーロー活動を続けているおかげで精神的に追い詰められている」という設定付き。
肝心の内容も、所謂「ヒーローの正義の是非を問う」という『ウォッチメン』を彷彿とさせる、哲学チックなものとなっている。
刺さる人には刺さるだろうが、ライト層には若干ハードル高めのような気も。「ただヒーロー映画を観に来ただけなのに………」と落胆した人も少なくないハズだ。
上記の理由に加え、ストーリー的に辻褄が合わない部分が多数見受けられたことから、観客からの評価はあまり芳しくない模様。
しかしながら、今作のラスボスポジであるドゥームズデイとの戦いは超ド迫力。前作におけるvsゾッド将軍を更にスケールアップさせた、かなり見応えのあるものとなっている。
敵対していたスーパーマンとバットマンが共闘するという胸熱な展開なのはもちろんのこと、あのワンダーウーマンまでもが参戦しているのだから、往年のファンたちは興奮必至だ。
DCコミックスのBIG3の1人に数えられる女性ヒーロー、ワンダーウーマン。 MCUでいうソーに並ぶ存在だ。演じているのは『ワイスピ』のガル・ガドット。
こうした圧倒的スケールで描かれる戦いは、さながら神話の戦いそのもの。まさしくスナイダー節全開の、渾身の一本だ。
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③世界を救え、クソ野郎共!!『スーサイド・スクワッド』
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『スーサイド・スクワッド』
(”Suicide Squad”)
あらすじ
ドゥームズデイとの死闘の末、スーパーマンが死亡し数ヶ月が経過。世界は希望の象徴を失ったことで、犯罪者はみるみる増加。
このままでは来たる世界の危機に立ち向かえないと判断した米国政府は、刑務所などに収監されている終身刑の犯罪者たちを招集。
集められたのは凄腕の殺し屋、ピエロ女、ブーメラン男、サムライ女、炎の悪魔、ワニ男………などなど、超個性的な面子たち。
立案者であるアマンダ・ウォラーは「タスクフォースX」、通称「スーサイド・スクワッド」を結成。減刑と引き換えに、政府否認の極秘ミッションに挑む、その名の通りの「決死部隊」だ。
果たしてこの荒くれ者たちは、世界を救える存在になれるのか。前代未聞のヒーロー・”クライム”・アクションが今、幕をあける。
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作品解説
MARVELにおけるアベンジャーズ、DCコミックスにおけるジャスティス・リーグのように、ヒーローたちによって結成されたチームは多数存在する。
しかしながら、この「スーサイド・スクワッド」はヒーローとは真逆の存在、ヴィランたちによって結成されたチームだ。
世界を”脅かす側”だった極悪犯罪者たちが、まさかの世界を”救う側”に。もはやDCEUという枠組みを超え、ヒーロー映画そのものの根底を覆すかのようなコンセプトだ。
デッドショットをウィル・スミス、ハーレイ・クインをマーゴット・ロビーが演じるなど、豪華キャスト陣が集結。
『ダークナイト』におけるヒース・レジャーの怪演が有名な、バットマン最大の宿敵ことジョーカーをジャレッド・レトが演じた。
監督には『フューリー』のデヴィッド・エアーが就任。前作まで監督を務めていたザック・スナイダーは、今回は製作総指揮に回っている。
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先述した通り、作品のコンセプトはとても奇抜かつ話題性も十分。前作の公開でいよいよ本格的に危ぶまれてきたDCEUの雲行きも、これで遂に晴れるか………!?
………と思いきや、またもや残念な結果に終わってしまったDCEU。興行的には成功を収めたものの、批評家たちからはボロクソに批判される羽目に。
観客として観ても、やはり感じるのはハッチャケぶりが足りないといったところか。悪役が主人公ってんなら、もっと好き勝手暴れて欲しかった感。
しかしながら、演出等は良い意味で雑味に溢れており、クライム・アクションとしてはかなりの出来となっている。
特にマーゴット・ロビー扮するハーレイ・クインを生み出した功績はデカい。今作に止まらず他作品でも出演したり、スピンオフ映画が制作されるなど、まさに破竹の勢いが如き人気を博している。
④闇を晴らすは、ただ1人の”戦姫”。『ワンダーウーマン』
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『ワンダーウーマン』
(”Wonder Woman”)
あらすじ
人間界とは隔絶された、女性だけが住む島・セミッシラ。女王ヒッポリタの娘であるダイアナ・プリンスは、いつしか島を守る戦士になりたいと強く願っていた。
その大きな願いから、過酷な訓練を積み最強の戦士となったダイアナ。だがそこへ、人間界から迷い込んできた男、スティーヴ・トレバーと出会う。
島より外の世界を未だ見たことがないダイアナは、好奇心に突き動かされるままスティーヴから人間界の様子を聞き出す。
だがこの時、人間界は第一次世界大戦の真っ最中だった。人類における最大の黒歴史を歩んでいる最中であり、平和とは遠くかけ離れた世界だとスティーヴは語る。
予想とはかけ離れた世界に絶望するダイアナ。だが彼女はやがて、この戦乱の元凶は戦争の神・アレスにあると確信を得る。
母の静止を振り切り、スティーヴと共に人間界へ赴くダイアナ。彼女は、気高き戦姫・ワンダーウーマンとして、世界にたちこめる暗雲を晴らすことができるのか。
https://eiga.com/movie/82349/gallery/
作品解説
『バットマンvsスーパーマン〜』(以下『BvS』)にて初登場したヒーロー、ワンダーウーマンの主役映画が遂に登場。
ガル・ガドットがダイアナ役として続投している他、『スター・トレック』のクリス・パインがスティーヴ役として出演。
監督にはパティ・ジェンキンスが担当。今作のヒットにより、女性監督作品としての興行収入の最高記録を更新した。
https://eiga.com/movie/82349/gallery/5/
今までに制作された3作品すべてがイマイチな結果に終わり、今度こそ存続が危ぶまれつつあるDCEU。
そんなDCEUを、あまりにも劇的に救い出してみせたのが、今作『ワンダーウーマン』である。
従来の作品は暗い作風が際立っていたDCEU。それこそがこのユニバース唯一無二の特徴とも言えるが、人気低迷の原因はやはりここに集約されていると言える。
だが今作はシリアスでありながらも、正統派のヒーロー映画らしく比較的明るい作風となっている。
コメディチックなシーンもあり、アクションも迫力大。ヒーロー映画らしさの溢れた、とても取っ付きやすい作品へと仕上がっている。
ワンダーウーマンのオリジンを描くということで、今までのDCEU作品をおさらいしなくても十分楽しめるという利点もある。
だがその一方で、舞台が第一次世界大戦中ということで当然ながら戦争映画らしい描写も。流石に『プライベート・ライアン』ほど残虐な描写はされていないが………
そしてそんな陰鬱な戦争の描写を、清々しいなまでに切り払っていくのもまたダイアナ・プリンス、通称”ワンダーウーマン”。
敵が大勢潜む廃屋に単身で突っ込み、『BvS』でも流れたあのテーマ曲をバックに無双し始めるシーンはまさに圧巻の一言。
「DCEUの負の連鎖を、ワンダーウーマンが断ち切る」といった具合に、当時のDCEUの人気の隆盛を思わせるような繋がりも。
今作のヒットにより、再び注目が集まったDCEU。MCUには及ばないにしろ、なんやかんや上手くいくだろう………と、この時は誰しもが思っていたことだろう。