クリント・イーストウッド (Clint Eastwood)
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ある時代は稀代のハリウッドスターとして、ある時代はハリウッドを象徴する名匠として、その名を轟かせてきた映画監督。1930年5月31日生まれ、現在96歳。本記事で紹介している映画監督の中で最も高齢である。多くの作品で監督と主演を兼任していることで有名。
「マカロニ・ウエスタン」の始祖ことセルジオ・レオーネ監督作『荒野の用心棒』に出演し、『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』からなる「ドル箱三部作」で一躍有名となる。
ハリウッドに帰還した後に数多くの作品に出演し、当たり役とも言われた『ダーティハリー』でハリウッドスターに上り詰める。同シリーズは俳優としてのイーストウッドを代表する作品となり、5まで続編が制作されている。
彼が監督としてデビューしたのは、1971年『恐怖のメロディ』から。「ストーカー」という言葉がまだなかったこの時代に、執拗に主人公を追いかけ続ける女性を描き話題となった。また今作が批評的に成功を収めたのをきっかけに、監督としてのイーストウッドも評価され始める。
とはいえデビュー当時の監督としてのやり方は中々に無茶振りで、イーストウッドが監督したスパイ映画『アイガー・サンクション』における登山シーンでは、周囲の警告を無視して超標高の山アイガーにて実際に撮影を執り行い、撮影中に登山家が落石事故で死亡、撮影監督を含む多くのスタッフが怪我を負うなど大惨事となった。興行的にも敗北を喫し、結果としてイーストウッドはユニバーサルと決別している。
1975年には、西部劇映画『アウトロー』を監督。アメリカ建国200周年を記念して作られた作品であり、南北戦争を舞台に人々の苦悩と逞しさを描いているが、この時西部劇映画はほとんど制作されなくなっており「西部劇最後の映画」と呼ばれたこともあった。
奇しくも、本当の意味で西部劇に終焉を迎えさせたのはイーストウッド自身である。1992年、『夕陽のガンマン』のセルジオ・レオーネと『ダーティハリー』のドン・シーゲルに捧げる形で『許されざる者』を主演も兼ねて監督し、自身のキャリアで初となるアカデミー作品賞・監督賞を受賞した。
その後も『マディソン郡の橋』『ミスティック・リバー』などを監督し続け、2004年には老トレーナーと若い女性ボクサーの壮絶な運命を描いた『ミリオンダラー・ベイビー』を監督。再び作品賞と監督賞を受賞し、監督と主演を兼任するだけでなく多種多様なジャンルを圧倒的センスで描き上げる名監督としての地位を確立する。
この時のイーストウッドの年齢は70を超えており、2008年『グラン・トリノ』を最後に俳優業は控えめにすると公言している。
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2006年には『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』からなる「硫黄島二部作」を描き、第二次世界大戦で起きた硫黄島の戦いを日米両方の視点から描いている。『硫黄島からの手紙』では渡辺謙や二宮和也など日本人キャストが多数出演した。
その後も『インビクタス/負けざる者たち』『ジャージー・ボーイズ』、実在した米軍スナイパーを描いた『アメリカン・スナイパー』など、監督としての手腕を発揮し続ける。また『グラン・トリノ』で実質的な俳優業引退を宣言したものの、ロバート・ローレンツ監督作『人生の特等席』で主演を演じている。
ちなみに『アメリカン・スナイパー』の撮影中、主演のブラッドリー・クーパーに『アリー/スター誕生』の原案を渡したことで、クーパーは監督デビューを果たしている。
2018年、知らずのうちにコカインの運び屋を請け負っていた実在のドライバーを描いた『運び屋』を、およそ10年ぶりに主演と兼任する形で監督。『リチャード・ジュエル』を挟み、2021年の『クライ・マッチョ』でも監督と主演を務めている。
2024年、ニコラス・ホルトを主演に迎え、法廷サスペンス『陪審員2番』を監督。アメリカでは映画館で上映されたが、日本ではU-NEXTでの独占配信にとどまった。本作が現時点におけるイーストウッドの最新作となっている。
この時イーストウッドの年齢は94歳。かなりの高齢であることから監督を続けるのは難しいのではと囁かれていたが、今年6月1日、彼の息子でありジャズ・ミュージシャンであるカイル・イーストウッドの口から事実上の現役引退が発表された。
これに対し、俳優である次男のスコット・イーストウッドは「そんな話は父から聞いていない」と否定しているが、カイルの発言は真実であるとされイーストウッドは長い映画人としての人生に幕を下ろしたのだった(あくまで監督業を引退しただけであってまだ存命なので安心されたし)。
時には荒野に佇むガンマンとして銃を引き抜き、時には荒くれ者の刑事として事件解決のために奔走し、時には心を抉るような衝撃作を世に放ち、時には人情溢れる頑固な老人を描き、数多くの物語を作り出してきたクリント・イーストウッド。彼が紡いできた功績は、最早言うまでもなく「巨匠」のそれなのである。
《代表作》
『許されざる者』("Unforgiven")
「イーストウッド最後の西部劇」とも呼ばれる、悪名高き元ガンマンの苦悩と葛藤を描いた西部劇。単純な勧善懲悪のアクション映画としての爽快感はなく、揺れ動く正義と悪の定義や「殺し」が成す意味を重苦しい作風で描く。
『グラン・トリノ』("Gran Torino")
戦争を経験し孤独に生きる頑固な老人の隣にアジア系の移民が引っ越してきたことで、老人の心境に変化が訪れる様を描いたヒューマンドラマ。偏屈でありながらも真っ直ぐな心を持った主人公の老人をイーストウッドが熱演し、ただのヒューマンドラマにとどまらない胸熱さを秘めている。
『アメリカン・スナイパー』("American Sniper")
イラク戦争において、計160人以上を射殺したとされる実在した伝説の狙撃手、クリス・カイルの人生を描いた伝記・戦争映画。類い稀なる狙撃手としての才能を活かし名声を得ていく一方で、何人もの命を自らの手で奪ってきたことによる精神の摩耗が綿密に描かれており、『プライベート・ライアン』以来の戦争映画の新たなる傑作として名を馳せた。
クエンティン・タランティーノ (Quentin Tarantino)
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秀逸な演出と脚本、洗練されたバイオレンス描写で有名な監督。90〜2010年代にて計10作品を監督し、タランティーノを史上最高の監督と称する声も多い。1963年3月27日生まれ、現在63歳。
監督・脚本家としてのデビュー作となったのは『レザボア・ドッグス』から。犯罪集団を企てる男たちの内輪揉めがテーマなのだが、これまでにないようなスタイリッシュな演出が人気を呼び、映画祭でも上映された。
その間、タランティーノは次の新作の脚本を執筆しており、1994年にジョン・トラヴォルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ブルース・ウィリスを迎え『パルプ・フィクション』を監督。時系列を巧みに入れ替え、軽快なテンポで繰り広げられる群像劇が高いを評価を獲得し、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞。アカデミー脚本賞も受賞した。
これを機にサミュエル・L・ジャクソンは一気に有名俳優の仲間入りを果たし、1997年のタランティーノ監督作『ジャッキー・ブラウン』ではベルリン国際映画祭で男優賞を受賞。
またタランティーノは『レザボア・ドッグス』と『パルプ・フィクション』の間に、『トップガン』のトニー・スコット監督作『トゥルー・ロマンス』の脚本を執筆しており、バイオレンス描写をはじめとするタランティーノらしい作風が多く盛り込まれている。
その後、元殺し屋の女の壮絶な復讐劇を描いた『キル・ビル』を監督。2003年に『Vol.1』が、2004年に『Vol.2』が制作され、タランティーノ随一のアクション映画となっている。本作はタランティーノの映画愛が爆発した屈指の作品でもあり、日本の時代劇、香港のカンフー映画などへ数えきれないほどのオマージュが捧げられている。
2007年、かつてアメリカに存在したB級映画を2、3本立てで上映する映画館「グラインドハウス」へ、オマージュを捧げる形で監督した『デス・プルーフinグラインドハウス』を監督。『パルプ・フィクション』などで描写されていた、後にタランティーノ節として確立する「長々とした、しかしスタイリッシュな雑談」が復活し、加えて70〜80年代のB級映画特有のフィルムの傷や画面のノイズを意図的に再現した。
2009年にはブラッド・ピットを主演に、架空の対ナチス部隊を描いた『イングロリアス・バスターズ』を、2012年にはレオナルド・ディカプリオとジェイミー・フォックスをキャストに迎え、黒人奴隷の反旗を描いた『ジャンゴ 繋がれざる者』を監督、どちらも世界中で大ヒットを記録した。
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しかし2014年、最新作の『ヘイトフル・エイト』の脚本がネット上に流出してしまう事件が起きてしまう。これを受けてタランティーノは脚本を一旦白紙に戻して書き直しを行い、2015年に公開された。尚流出されたオリジナルの脚本は、タランティーノがロサンゼルスにてカート・ラッセルやティム・ロス、サミュエル・L・ジャクソンなど常連キャストを招き朗読会を行った。
2019年、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという2大スターを主演に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を監督。マーゴット・ロビー、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニングなどの若手スターから、マーガレット・クアリーやシドニー・スウィーニー、マイキー・マディソンなど後の映画で大ブレイクを果たす俳優たちも出演し、例に漏れず今作も世界的ヒットを叩き出した。
ちなみに今作でブラッド・ピットが演じた登場人物「クリフ・ブース」のスピンオフ映画である『The Adventures of Cliff Booth』(原題)が、デヴィッド・フィンチャー監督、タランティーノ脚本で公開される予定。エリザベス・デビッキとヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世らが共演し、今年に公開予定。
彼のキャリアにおける10作目(『キル・ビル』はVol.1と2を合併して一つの作品として数えるものとする)となる作品においては様々な憶測が飛んでいる。タランティーノは以前から「長編映画を10本作ったら監督は引退する」と公言しており、そのため次に公開される作品がタランティーノのキャリアにおいて最後の映画となる。
10作目として計画されていた『The Movie Critic』はタランティーノが脚本の練り直しを行なっていたが、2024年にプロジェクトの中止を発表。9作目で引退するのか、それともまた新たな映画を作り出すのかは未だ定かになっていない。
映画マニアの母親の影響で映画と共に育ち、レンタルビデオ店で働いてきた経験から映画への造詣が非常に深く、先述したように数々のオマージュを自身の作品に盛り込んでいる。『ワンス・アポン〜』に至っては、タランティーノの敬愛する「マカロニ・ウエスタンの父」ことセルジオ・レオーネの『ウエスタン』のタイトルをオマージュしている。
『キル・ビル』にて千葉真一が演じる服部半蔵に関しては、時代劇『服部半蔵 影の軍団』シリーズと同名の役柄である。千葉真一によるアクションではないが、日本刀を用いた多対一の殺陣アクションなど往年の時代劇にもリスペクトを捧げている。
ドライなバイオレンス描写、独特な台詞回し、時系列を組み替えて形作られたストーリーなど、彼の作品特有の作風は「タランティーノ節」として親しまれ、今もなお愛され続けているのである。
《代表作》
『パルプ・フィクション』("Pulp Fiction")
レストランで強盗を試みるカップル、天啓を得て足を洗おうとするギャング、ヤクをキメてしまったボスの妻とそれを隠そうとする下っ端の男、八百長試合で相手を殺してしまったボクサー。全く相関関係のない人々を時系列を組み替えることで描くクライム・ブラックコメディ。タランティーノ節がこれでもかと詰め込まれた作品であり、クライム映画の新境地を拓いた作品として知られる。
『キル・ビル』("Kill Bill")
Vol.1、Vol.2からなる、お腹の子供を殺された元殺し屋による復讐劇。『死亡遊戯』にてブルース・リーが着ていた黄色いジャージを身に纏い、日本刀と拳法で血塗れになりながら敵を薙ぎ倒していく様は凄まじく痛烈であり、後のアクション映画に大きな影響を与えた。捧げられたオマージュの数は計り知れず、タランティーノの映画愛が詰め込まれた二部作。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』("Once Upon A Time in Hollywood")
スターとしての活路を見出せずにいる落ちぶれた俳優のリックと、そんな彼の世話役で元スタントマンのクリフによる、1969年のハリウッドを舞台に描かれる再起の物語。西部劇の衰退やヒッピー文化など60年代後半のアメリカの特色が多く盛り込まれており、「昔々のハリウッド」に対するタランティーノの強い愛が感じられる至極の一本。
デヴィッド・フィンチャー (David Fincher)
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CMディレクターやMV監督を経て、90年代にデビューした映画監督。サスペンス映画を主に作り続け、人の心に潜む闇の部分を洗練された手法で描く。1962年8月28日生まれ、現在63歳。
1980年にアニメーターとしてキャリアをスタートさせ、1986年に自身の映像制作会社「Propaganda Films」を設立。マドンナやマイケル・ジャクソン、エアロスミス、ローリング・ストーンズのMV撮影を行った。
1992年、『エイリアン3』で映画監督デビューを果たす。知っての通り『エイリアン』は超巨大フランチャイズであるが、『エイリアン3』は興行的・批評的の双方で失敗を遂げ、それに加え撮影の難航やスタジオからの勝手な編集により当時フィンチャーは相当精神的に参っていたとされる。
「次に映画を撮るぐらいなら大腸癌で死んだ方がマシだ」と、自身の元に送られてきた脚本を軒並み突っぱねたとも………
1995年、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンを迎え、監督としての復帰作『セブン』を制作。七つの大罪を題材とした緻密なサスペンス映画として高い評価を獲得し、完全にキャリアの軌道を取り戻した。
続く1999年にはブラッド・ピットと2度目のタッグを組み、新たにエドワード・ノートンを登用し『ファイト・クラブ』を監督。当時は暴力描写により酷評されたが、徐々にカルト的人気が湧き出し今ではフィンチャーの代表作の一つに数えられる。
2008年には『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』を監督。ブラッド・ピットとは3度目のタッグとなり、今作で初のアカデミー監督賞ノミネートを果たす。2010年にはFacebookの創設者、マーク・ザッカーバーグの半生を描いた伝記映画『ソーシャル・ネットワーク』を監督、2度目の監督賞ノミネートを達成する。
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その後も精力的に監督業に励み、2011年にはダニエル・クレイグを主演に『ドラゴン・タトゥーの女』を、2014年にはベン・アフレックを主演に『ゴーン・ガール』を制作。この頃からサイコホラーとサスペンスを掛け合わせた作風が主流になり始める。
その後Netflixと契約し、2020年には『市民ケーン』の共同脚本家であるハーマン・J・マンキーウィッツの伝記映画『Mank/マンク』をゲイリー・オールドマン主演で監督。続く2022年には、マイケル・ファスベンダーを主演に殺し屋の逃亡劇を描いた『ザ・キラー』を監督した。前者では3度目のアカデミー監督賞ノミネートを果たしている。
またMV監督になる前まではルーカスフィルムのスタッフとして働いていた過去を持ち、『スター・ウォーズ/エピソード6 ジェダイの帰還』や『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』にてカメラマンの助手として参加していた。
この頃は映像の合成技術が発展途上であり、特撮も非常にアナログなやり方で行われていた。こうした一寸のミスすら許されない経験が、後に映画監督としてデビューした際の完璧主義に繋がっており、何度もリテイクを繰り返すことで名作を作り続けている。
タランティーノからも「最高の監督」と称された、ハリウッドを牽引するほどの才能の持ち主。全てが計算し尽くされた、究極の映画体験を生み出した稀代の監督なのである。
《代表作》
『セブン』("Seven")
「七つの大罪」をモチーフとした凄惨な殺人事件を繰り返す謎の殺人犯と、それを追うベテラン刑事と新人刑事の壮絶な運命を描いたサスペンス映画。一貫して描かれるダークな世界観と重苦しいテーマ、誰もが驚愕する衝撃的なラストが大きな波紋を呼び、サスペンス映画の金字塔として知られている。
『ファイト・クラブ』("Fight Club")
不眠症を患う男が、殴り合いにより勝者を決する謎のクラブ「ファイト・クラブ」によって変化していく物語。公開当時は不評だったものの時が経つにつれてカルト的人気を博すようになり、今ではフィンチャーを代表する映画の一つになっている。主人公のナレーションによって進行していく構成や、『セブン』と同様度肝を抜くラストなど名作として語り継がれている。
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』("The Curious Case of Benjamin Button")
年老いた姿で生まれ、年齢を重ねていく毎に若返っていくという文字通り「数奇な人生」を与えられた男が主人公の映画。主演のブラッド・ピットは『セブン』『ファイト・クラブ』に続き3度目のフィンチャーとのタッグを組んだ作品でもある。人との出会い、愛する人とのかけがえのない日々、そんな普遍的な人生観を主人公を通して遡っていく人間ドラマとなっている。





